英語を速読する方法とそのトレーニングについて解説します
受験英語で出題される英文の分量は年々増えていき、留まることを知りません。受験英語において速読力が今後も一層重要になってくることでしょう。
この記事では、英語の速読法とそのトレーニング法について説明していきます。英語の速読術を身につけてライバルに差をつけていきましょう。
英語の速読とは
まず、ここで「英語の速読」について定義しなければなりません。当然ですが、受験で言われる「英語の速読」は、「日本語の速読」とは違います。
英語も「日本語の速読」と同じように、本当に数分で何十ページも読めるのが一番ですが、それほどの英語力を持っている人は、そもそもこの記事を読んでいないことでしょう。
ここで言う英語の速読は以下の3つです
- 左から右に読む
- パラグラフリーディング
- 単語の意味が瞬時に頭に浮かぶ
それではこの3つのポイントとそのトレーニング方法について見ていきましょう
左から右に読む
受験英語で言われる「速読」とは、「左から右に読むこと」と考えて良いでしょう。繰り返しますが、「受験英語の速読」は「日本語の速読」とは意味が違い、「速く読む」必要はありません。その代わり、「止まらず」「返らず」「一発で読む」ことを心掛けなければなりません。
それではそのトレーニング方法ですが、スラッシュリーディングが最も効果的です。
スラッシュリーディングに関する参考書は、書店に行けば必ず売られていますので、聞いたことはあると思います。簡単に言うと、意味の区切りごとにスラッシュを打っていき、左から右に読み進めることです。
あなたの為に何をすれば良いのか分からない。
上のように普通に日本語訳をすると、返り読みになってしまいますが、これを次のようにします。
私は分からない。/ 何をすべきか。/ あなたの為に。
このように意味の区切りごとにスラッシュを打っていき、一つひとつ丁寧に日本語訳をしていきます。1文の英語を1文で訳そうとすると、返り読みをしなければならず、頭に入りにくく感じてしまうでしょう。
しかし、上のように句点を打っていくと、左から右でも、より自然な日本語に感じるのではないでしょうか。これを繰り返していくうちに、返り読みをせずに左から右に読んでいくことに慣れていくことでしょう。
重要なのでもう一度言いますが、丁寧に日本語訳をしてください。
英語の速読に関心がある人は次の言葉を一度は耳にしたことがあると思います。
「英語を英語で考えろ」、「日本語訳をするな」、「日本語を介さず理解しろ」
よく言われる言葉ですし、そうなるのが確かに理想ではありますが、有名英語講師の中には、そのように教えるのを控えている人も多くいます。
むしろ彼らは「丁寧に読め」とも言っております。
言語は思考の根源であり、日本人の私たちが日本語で考えないというのは「考えていない」ことと同義です。帰国子女や日常生活から四六時中常に英語で考えている人でしたら可能かもしれませんが、ほとんどの受験生の英語力ではそれは難しいでしょう。筆者は現在英語の翻訳家としても活動していますが、筆者も日本語で考えています。
ただ、日本語を介して理解するスピードが速く、あたかも英語を英語で考えているような感覚になっているだけです。
良く引き合いにだされる「アップル」や「ハッピーバースデー」は、既に「アップル」と「ハッピーバースデー」という単語として日本語に定着しています。だからこそ「りんご」や「誕生日おめでとう」を介さずに理解できているのです。
一度試してみるとすぐに分かると思います。英語を英語で読んで(いるつもりになって)も、ただ曖昧に頭の中で「ぼやぁ」と知識が渦巻いているだけで、しかしそれで読んでいる気になってしまい、そして実際に問題を解いてみると全く解けないのです。
英語の速読は「左から右に読む」ことであり、「速く読む」ことではありません。一つひとつしっかりと日本語で考え、着実に読み進めていきましょう。
実際のところ、センター英語も一発で読むことができれば、そこまで速く読む必要はありません。80分中考える時間に40分も割いたとしても、残り40分で4400単語ですので、110単語/分、つまり一発で読めれば1秒あたり1~2単語で良いのです。
一回試しに英文をこのスピードで読んでみてください。かなりゆっくりであることに気づくでしょう。「時間との戦い」と言われているセンター英語ですらこのペースです。
誰も解けない捨て問を無視することで大幅に時間が稼げる上智の英語、設問が素直で抜き出せば大体正解できる東京外語、文章自体は比較的平易な東大もそこまで慌てる必要はありません。
鬼門は早稲田、慶応です。ここばかりは「速く読む」ことを意識しなければなりません。しかし、それでも「日本語訳を速く行う」ことを心掛けてください。
分量が膨大な分、曖昧な解釈のままでも解ける問題が多いですが、少なくとも受験勉強の段階では、それでは力がつかないので、丁寧に解いていきましょう。
特に解釈が曖昧なところほど「英語を英語で考えている」気になるのではなく、きちんと日本語で解釈した方が良いです。
「スラッシュリーディング」と言うと、いかにも「裏技」じみた「受験テクニック」のように聞こえますが、これは受験英語に限らず英語学習における「正攻法」です。
実際に、これを習得するにはある程度の英語力が必要です。関係詞や文型などをしっかりと理解していなければスラッシュリーディングはできません。
しかし、理解してさえいれば、難解な構造を持つ英文もしっかりと順序立てて容易に読むことができます。
パラグラフリーディング
英文読解においてパラグラフリーディグは必須のスキルと言っても良いでしょう。パラグラフリーディングは、「速読」、「分からない単語の推測」、「論理的読解」において非常に強力な武器になります。
パラグラフリーディングの方法はとても簡単で、パラグラフごとに、そのパラグラフ内で最も重要な文(トピックセンテンス)を見つけます。
トピックセンテンスをつかみさえすれば、その他の文は、そのトピックセンテンスの「具体例」、「理由」、「反対意見の反論」など、そのトピックセンテンスの肉付け部分にすぎないので、ササっと読み流すことができます。
文の意味をはっきりと理解していなくても、「この文はトピックセンテンスの具体例だな。この文はトピックセンテンスの理由だな・・・・」のように読み進めていくことができれば、読解においてほとんど問題ありません。
また、トピックセンテンスの意味が分からない場合は、肉付け部分から推測することができます。特に具体例はトピックセンテンスをそのまま言い換えているものですので、単語の推測において非常に便利です。
また、トピックセンテンスは、第1パラグラフの導入部と最終パラグラフの結論以外は、ほとんどの場合、パラグラフの最初の文ですので、見つけるのはそれほど難しくありません。
様々な受験参考書によく書いてある「一つひとつ丁寧に読まず大意をつかめ」とはこのことを指しており、決して「曖昧に読め」と言っているわけではありません。
大意をつかむ為には、しっかりと論理的に読み進めていく必要があるのです。
パラグラフリーディングは、慣れないうちは時間がかかり、また点数も悪くなるかもしれません。しかし、受験においては必須の能力ですので、今のうちに身に付けておきましょう。
単語の意味が瞬時に頭に浮かぶようにする
単語帳で単語を覚えるとき、次のようになってはいないでしょうか。
「この単語の意味は・・・えっと・・・あ、あれだ!!」
単語を見て数秒考えてから、ようやく日本語訳が出てきた単語は、まだ覚えた内には入らないと判断した方が良いです。しっかりと定着していない単語は、試験で急に出た時対応できません。
人間の脳はパソコンと同じで、一度に処理できるタスクに限界があります。単語の意味を思い出すのにメモリを取られると、読解の方まで頭が回りません。
実際に読解問題であなたが使えている単語は単語を見た瞬間に日本語訳が出てくるものだけです。
また、単純に日本語訳が瞬時に浮かぶということは、それだけ読むのが速くなるということでもあります。単語数が4400語程度あるセンター英語で例を挙げると、単語を見て日本語訳が浮かぶのが、コンマ1秒早まるだけで、単純計算でも440秒、つまり7分半ほどの時間を短縮できるということです。7分あれば大問が1つ解けますね。
覚えた単語を消していき、覚えていない単語を重点的に覚えていく勉強法を行っている人も多いと思いますが、消して良い単語を「即答できたものだけ」と条件を厳しくしましょう。
トレーニングに最適な教材
スラッシュリーディング、パラグラフリーディング、単語の覚え方と、速読の為のトレーニング方法について前項で述べました。それでは次に、そのトレーニングをどの教材で行うべきかについてお話をします。
過去問はできるだけ近い年度に絞る
大学受験において、受験生に求められる能力は時代によって変わっていきます。難解な論文や文学を精巧に訳す力が求められていた2000年初期では、分量が少ない分、内容や構文がやや難解なのが特徴です。
この時代の受験英語は知識の量がモノを言い、点数が純粋に知識の量を示す指標となっていました。
しかし、2000年中期以降は、平易な文を大量に読ませる形式に変わり、知識の量ではほとんど差がつかないようになりました。そして、その代わりに処理能力の速さが点数の指標になったのです。
2009年をピークに出題語数が一時的に下がりましたが、それでもなお全体的に語数は増加傾向にあります。
アメリカ人やイギリス人しか読めないような難解な文書を読む力よりも、「世界の共通語」として万人に通じる「平易な英語」をいかに運用できるかに焦点があてられていると言えます。
これは、英語の知識は誰よりもあるのに、中学レベルの英語しか使っていない中国人やロシア人の学生とさえまともに会話できないという問題を受けてのことでしょう。
したがって、同じ大学の過去問を昔までさかのぼって解くことは得策ではありません。同じ英語の試験でも、陸上で言うなら長距離走と短距離走くらい違います。これでは対策になりませんね。
筆者の体験談ですと、筆者の受験生時代がセンター英語の傾向移行期ということもあり、高3の春、初見で新傾向のセンター英語を解いた時に面を食らった思い出があります。
英語は得意科目であり、それまで偏差値65以下を切ったことがなかったのですが、その試験で偏差値45くらいまで下がってしまいました。
自慢であった知識の量はまるで役に立たず、逆に中途半端に頭にいれた知識の量があだとなり、処理速度が遅く、また分からない問題も捨てきれず、半分くらいのところでタイムアップ。たったの70点前後という酷い結果になってしまいました。
つまり同じ英語の試験でも(センター試験では)これくらい違う試験になっているのです。速読のトレーニングをする為には、できるだけ近い年度ものを利用しましょう。
もちろん大学によって出題傾向は違い、一概には言えませんので、昔の問題を一読する必要はあります。
同じ大学ではなく、同じ学部の問題を解く
近い年代の過去問を解くとなると、過去問の量が大幅に減るように感じられるでしょうが、そんなことはありません。違う大学の別の学部の問題を利用すれば過去問は無数にあります。
前項で速読のテクニックについてお話をしましたが、それよりも大事なものがあります。それは「専門知識の量」です。
筆者は現在翻訳家として活動していますが、翻訳家に求められるものは専門知識の量であり、それがなければ英検やTOEICなどの資格はまるで役に立ちません。それくらい読解において専門知識の量が重要になってくるのです。実のところ受験生の上位層は、読む前から大まかな話の流れや結論を予測できています。彼らにとって受験英語の読解は「読解」ではなく、自身の予想と照らし合わせた「確認作業」なのです。
「本文に入る前にまず問題を読め」とよく言われる理由はここにあります。何について話していくのかを事前に分かるか分からないかで難易度が大幅に変わるからです。
「環境問題について」の文で例を挙げましょう。
受験上位層は、問題のキーワードなどから、その文が「環境問題」について論じていると分かった時点で、既にその文章の内容をある程度予想できています。
「『環境保護』と『開発』の2項対立(背理法)で文が進んでいき、最後に『持続可能な開発が重要だ。』で結論付けるのだろうな。」
といった感じに、話の流れと結論を予想し、あとは本当にそのような文なのかを確認していくだけなのです。そして大方その予想は当たっています。
専門知識を増やす為に新しく専門書を買う必要はありません。様々な大学の同じ学部の同じような内容の文を読むだけで良いです。
そのようにすれば、どの文章も大体同じことを言っていることに気づくことでしょう。実際のところ、本文が多少読めなくても常識的に考えれば解ける問題も少なからずあります。
逆に奇をてらった見解を述べている文章も、それはそれで読解が非常に簡単となります。なぜなら、押さえるポイントが明白だからです。そのような文は、「このような見解が常識とされているが、しかし~」となっているはずなので、その「しかし~」のところをしっかり読み取れさえすれば良いのです。
そして、その箇所が確実と言って良いほど設問に出題されます。常識から外れた見解は出題者側も「しっかり読めているか」を見極める上で非常に都合が良いからです。
過去問をできる限り近い年度のものを解いた方が良い理由がここにもあります。
例えば「憲法9条」についても今と昔では見解が違います。
現在では「改憲派」の意見がメジャーになりつつありますので、「護憲派」の文章ばかり読んでいても、さほど参考にならないでしょう(反対意見の立場も一読する価値は充分にありますが)。
まとめ
「何かを速く行う」ためには、まず「ゆっくり行う」ことから始めなければなりません。
ピアニストやギタリストの人間離れした指の動きも、あそこまで至るのに、まずはゆっくり弾くことから始めています。英語の速読も同じであり、初めから速く読もうとしても速く読むことはできません。
まずは正しい方法でゆっくり着実に読めるようにしましょう。
そこから少しずつスピードを上げていくことが、結果的に「速読」への近道になることでしょう。