小論文を書く前に読んでおきたい一般書・参考書 〜ホントの書き方、知っていますか?〜
小論文と言えば、それなりに対策や練習をしなくてはいけないけれども、添削してもらってもイマイチ出来が伸びない…あるいは、添削の授業をわざわざ履修するのもコスパが悪い…といったジレンマで、学生を悩ませることでおなじみの科目。
本記事は、小論文対策としてやるべき勉強法と、おすすめの一般書や参考書を、いくつか紹介していきます。
1.「小論文の練習」系の参考書は買っても無駄?
1-1.多くの小論文の参考書が使えない理由
小論文対策を自習の範囲で収めようとすると、だれもが手に取るのが「小論文の書き方」を教えてくれる実践的ないし演習形式の参考書ではないでしょうか。
しかしこれらの参考書の多くは、小論文の見かけを装った「小論文」風の作文を書かせるための技術しか教えてくれないことがほとんどです。(もちろん筆者も、すべての参考書を網羅して確認したわけではないので、もしかしたらマトモな参考書もあるかもしれませんが。)
これらの参考書の何がそんなに「使えない」かというと、それが教えてくれる書き方に問題があるのです。
たとえば、ほとんどの小論文の参考書が教えてくれる「メソッド」には、次のような典型的な形式があります。
確かに、SがPであるべきだという主張は、以下のようなメリットをもつ。
メリット⑴
メリット⑵
しかし、SがPであるべきだという主張は正しくない、と私は考える。
なぜなら、この主張には以下のデメリットがあるからである。
デメリット⑴
デメリット⑵
以上のように、SはPであるべきではない。
いろいろ類型はありますが、こうしたものがひとつの一般的な例としてあげられるでしょう。以上の論述のなにがまずいかというと、まったく論証になっていないということです。
小論文でもとめられる論証とは、順序正しく推論することで、自説を客観的に正当化することです。
にもかかわらず、上の例では、単にメリットとデメリットを書き散らしただけで、順序も整合性も脈絡も論理も、なにも備え付けることができていないのです。
そもそも「SはPであるべきだ」といった規範性つまり当為をそなえた言明においては、そのメリットとデメリットとの各々が質的に特殊なものである場合が多く、数的・量的には比較しがたいものである場合がほとんどです。
したがって、事柄の両面を見比べるだけでは、なんら論証として機能しないのは明白です。
1-2. ホンモノの論証・論述が行われている一般書・参考書を選ぼう
ではどうすればいいのか。それは、こうしたニセモノの参考書を手に取らないこと、そして、ホンモノの論証・論述が行われている一般書・参考書を手に取ることです。
というのも、たしかに上のような小論文風の形式はまったくダメですが、だからといって、カタチから入る小論文メソッドがまったくないのか、したがって、小論文が苦手な学生が手をつけられる対策は存在しないのか、というと、そういうわけではないからです。
論述、論証にはカタチがあります。たとえば、「すべての人間は歩く」「ソクラテスは人間である」「ソクラテスは歩く」といった三段論法(形式推論)などは、まさしく論証の最も伝統的なカタチなのです。
なのにそのカタチを、多くの参考書が誤って伝えてしまっている、というのが現状なわけです。
そこで、良質な本を読めば、良質な論述の型をまなぶことができるというのも、また当然のことであると言えるでしょう。
2.おすすめ参考書
それでは、正確な小論文の型を覚えるために、オススメの参考書をいくつか紹介します。
1.山内志朗『ぎりぎり合格への論文マニュアル』平凡社新書、2001。
慶應大学文学部教授の山内志朗氏が、受験小論文から大学の卒業論文くらいまでを想定してその書き方を教える参考書です。
参考書としてのみならず、読み物としてもおもしろい。おもに小論文とはどんなものか、どんな目的で、どんなモチベーションで書くべきものか、といったことを知りたい、本当の入門者にとっては、なによりも助けになる本でしょう。
2.野矢茂樹『新版 論理トレーニング』産業図書、2006。
元東京大学教養学部教授で、立正大学文学部教授の野矢茂樹氏が、日本語でかかれた文章の「論理構造」を把握する能力を鍛えてくれる本です。
これに関しては、作文に限らず、読解力や総合的な国語力、さらには外国語力の基礎にもなっている「論理力」を伸ばしてくれるので、非常にコスパが良いです。
例題が数多く収録されており、その解答・解説も充実しているため、独習にはもってこいの一冊といえます。
3.ウンベルト・エーコ『論文作法』而立書房、1991。
20世紀イタリア最大の哲学者ウンベルト・エーコが、卒論や学術論文を念頭に、執筆法を細々教えてくれる。教養としてもおもしろい本なので、読んでおくと良いでしょう。
世界的なベストセラー『薔薇の名前』を遺した一方、記号学者としての顔も印象強い「あの」エーコに、論文技法を学んだとなれば、大学入試の小論文くらいは楽々通過である。しかし、イタリアと日本では若干事情が異なるので、注意が必要です。
4.澤田昭夫『論文のレトリック』講談社学術文庫、1983。
東大出身で、筑波大学元名誉教授の著者が、論文の執筆の戦略的な側面を強調しつつ、そのレトリックについて多くを伝える貴重な一冊。
小論文を書くにあたって、どうしてもレトリック、つまり言い回しが効いてこない学生は、ぜひ読むべきでしょう。
5.戸田山和久『新版 論文の教室 レポートから卒論まで』NHK出版、2012。
名古屋大学大学院教授の著者が、主に大学生のレポートから卒論までを照準に、書き方を教える一冊。
大学生が身につけるべき知識でもあるが、高校生と大学生なんてせいぜい一歳しか変わらないので、受験生にも当然理解できるし、使えます。
論理学、分析哲学に精通した著者の指導は、安心して身をまかせることができるでしょう。
3.まとめ
以上、小論文対策にオススメの参考書を5冊、紹介しました。
ところですでに述べたように、世間ではニセモノの参考書がハバをきかせていますから、塾や学校の先生に聞いても、上のような本はほとんど名前が上がらないかもしれません。
ですが、信用できない参考書を読んで、自分の論理的な作文能力を腐らせてしまうよりは、筆者としても、ぜひ本当に芯の通った本を通じて、自身の能力を開花させてほしいと願うばかりです。