東大英語の「要約問題」をクリアするテクニック
東大英語の難しさは、そのレベルの高さもさることながら、限られた時間のなかで多種多様な問題を得点しなくてはならない、というところにあると言えます。
求められるのは、手早く、正確に解答する能力であって、効率化が第一の課題となるわけです。
しかしこの効率化の最大の難関は、そもそも東大英語のほとんどのパートが「記述式」であること。受験生は、速く書く能力を、何よりもまず身につけなければならないのです。
それでは具体的に、「速く書く」ためのトレーニングとは、一体何をすれば良いのでしょうか?
いろいろやりようはありますが、一番手っ取り早いのは、実地の訓練。つまり、東大英語の過去問を実際に題材にして勉強することでしょう。
もちろん、ある程度のところまで学習が進んでいれば、という条件付きではありますが。
そこで本記事では、東大英語の「即答能力」を鍛えるための一番のステップであるとともに第一の難関、「要約問題」について、その効果的な克服法を伝授していきます。
1.要約問題とは?
ここで言う東大英語の要約問題とは、例年「大問1-A」に配置されている問題形式のことです。おおよそ問題用紙一枚分ほどの、3〜4段落からなる英文が与えられ、これについて100〜120字ほどの日本語で要約を作る、というのが課題です。
ポイントは次のふたつです。
② 悩まず、すぐ訳し、まとめる。
要約問題で求められるスキルは、おおよそ上のふたつのものだと言って良いでしょう。
2.そもそも要約って、何をするもの?〜まとめと要約の違い〜
受験生の指導をしていて思うのは、ほとんどの人が「要約」と言われて何をすればいいのかわかっていない、ということです。
たしかに高校ではあまり教えてくれないことも多いのでむりもありませんが、要約の意味を理解できなくては、この設問はクリアできません。
そこで、要約とは何かを理解するために、要約と「まとめ・概略」の違いを考えてみましょう。
一般的に言って、まとめや概略は、あるテクストの重要な部分を抜き出し、また不要な部分を切り取り、短くわかりやすく書き直すことを言います。
この「わかりやすく」というのがまとめの場合のポイントで、つまり、話の流れを見えやすく、抑揚をつけるのが「まとめ・概略」なのです。
それでは、要約はまとめとどう違うのでしょうか?
一言で言えば、要約は「流れをまとめる」ことではなくて、「論理を組み立てる」ことなのです。
もう少し詳しく言うと、要約の場合、結論に至るまでに必要な論理的構造を抜き出し、これを再構築する必要がある、ということになります。
少し大きい話なので、具体例で考えてみましょう。ここでは、桃太郎のお話を例にとって、まとめと要約の違いをはっきりさせます。
要約 :桃から生まれた桃太郎は、鬼を倒すことによって、育ての親であるおじいさんとおばあさんを含む、人々の安寧を取り戻したのでした。というのも、鬼は人々を脅かす危険な存在だったからです…(以下略)。
このようにしてみれば一目瞭然ですが、単なるまとめは、話の流れを順に追っていくだけであるのに対して、要約の場合、結論から始め、そこから逆再生するように、結論に至るために必要な要素を説明していきます。
要するに、要約は結論(上)からはじまり(下)に向かうトップダウン型、まとめははじまりから結論に向かうボトムアップ型、という風に整理できます。
そして、東大英語の要約問題で問われているのは、トップダウンの要約であって、単に話を簡略にして伝えるボトムアップのまとめではないのです。こうして、要約ということでなにをすればいいのか、よくわかったことと思います。
それでは次に、具体的にどのようにして速く要約を作ることができるのか、考えていくことにしましょう。
まとめはボトムアップ、要約はトップダウン。必要なのは、トップダウンの要約を作ること。
4.速く解くための勉強法
要約問題を速く解くために必要なスキルは、トップダウンの論述を構成する能力に他なりません。そしてこれを、問題文から正確に抜き出しつつ構成するということは、問題分の流れをしっかりと把握してはじめて可能になるものです。
あくまで一般論であり、多くの場合は、という制限付きですが、要約問題で与えられる問題文は、たいてい次のような構成になっています。
途中の段落・展開部:結論に向けた論拠の提示
最終段落・結論部:結論の提示、主張の決定、「フリ」に対する「オチ」
さて、これに対してどのように挑んで行けばいいでしょうか。まず、やるべきことをふたつに分けておきましょう。ひとつは、まず英文を読む段階、もうひとつは、日本語で要約を作る段階です。
⑴ 英文の読み方
先に書いた段落の構成をしっかりと意識しつつ読むことが重要です。
第一段落では、導入がなされているはずですから、用語や定義をしっかり確認します。以下で何が問題になるのか、どのような解決が必要なのか、正確に捉えておきましょう。
第一段落が読めたらば、その問題が、どのように展開されていくのかに注意しながら、途中の段落を読解します。
つねに軸足を第一段落の内容に据えて、自分がどこにいるのか、迷ってしまわないように注意しましょう。
途中の段落は、第一段落から最終段落に行くまでの「支え」、いうなら「橋渡し」の役割が強く、単独で重要なテーゼを含むような部分ではありえません。
そのため、できるだけ早足で、最低限の流れをさらいつつ、時短で読みます。あとからまた言いますが、途中の段落の内容は、日本語要約を作りながら読み直す方が効率的です。
英語を読む段階では、最低限の情報として、何の話題について話しているかを確認しておけば十分です。
最終段落ですが、実際、ここが一番重要です。第一段落での話の導入、途中での展開は、すべて最終段落で「オチ」をつけるために書かれたものといってもいいくらいだからです。
そのため、ここは基本的に、一言一句見逃さず、比較的時間を使って良いところです。しっかり読みましょう。
第一段落・最終段落は注意深く、途中は駆け足!読み方に緩急をつけよう
⑵ 日本語要約の作り方
さて、英文を読了したら、いよいよ日本語で要約を作ります。そこで、さっき言ったことを思い出して欲しいのですが、要約を作る場合、あくまで内容を「トップダウン」にまとめる必要があります。
このとき、英文の構造と対照させて、以下のような要約が理想形であることを覚えておきましょう。
2.「結論」の理由として、あとから展開部の流れをまとめる。
3.展開部を締めくくり、ふたたび結論を繰り返す。
この論述の順序は、具体的にはどのようになっているでしょうか。たとえば、英文が「青少年の貧困」がテーマだったとしましょう。そして、各段落がおおよそ次のような内容で構成されていたとします。
英文の構成
第一段落 「一億総中流」という概念は、昭和から平成初期まで、日本の経済状況についての謳い文句として広く用いられた…。しかし実は、このキャッチコピーの陰で、親の世帯収入の差異による教育格差が、ますます広がっていたのである。
第二段落 教育格差の拡大は、生涯年収の格差の拡大につながる。それを示すデータもある…。
第三段落 こうした教育格差の問題は、生まれながらに将来の社会的階層が決定されてしまうという意味で、民主主義の理念に反する。民主主義の理念とは、人々が生まれながらに平等であるというもののことである…。
最終段落 教育格差をこのまま放置することは、民主主義の理念に反することであって、よろしくない。問題は、一億総中流という看板に惑わされ、われわれ国民が、青少年の貧困事情を直視してこなかったことに他ならない…。
この英文がしっかり読めたら、次のような順番で日本語の要約を構成していく。
日本語の要約例
冒頭【導入と結論の要約】「国民の全てが社会・経済的に中流階層に位置するという幻想によって、青少年の貧困は見過ごされてきた。この見逃されてきた貧困が、教育格差のような、民主主義の理念に反しかねない問題を惹起している」。
中盤【展開部のまとめ】「というのも、生まれながらの平等を謳う民主主義にとって、生涯年収を左右しかねない決定的な教育格差を容認するわけにはいかないからである」。
終盤【結論のくりかえし】「そのため、あいまいな概念にごまかされず、教育格差の問題に向き合わなくてはならない」。
以上のように要約すると、論点が明確に見えてくるし、解答者が論点を看破できていることも明示できる。
第二のポイントは、関係節や従属節を上手に用い、一文を簡潔に、かつ情報を詰め込んで書くこと。
第三のポイントは、どのみち大した文字数をかけないので、展開部はキーワードのみ押さえておけば時短につながるということ。
以上となります。
まとめ
このようにして、要約の作り方を押さえた上で、東大英語の「要約問題」に挑むと、おどろくほど容易に得点できるのをわかってもらえると思います。
あとは過去問や問題集を使って、なるべく沢山の問題になれましょう。その際、1度解いてお終いではなく、自分の答えではどこが不十分でどこが余計だったのかを見直し、時間を空けて繰り返しときましょう。
最後は、何度も繰り返し過去問にトライして、読解の速度を上げていくことを目指しましょう。