小論文が伸び悩む受験生必見!〈論理的な小論文〉を上達させる方法
受験学部に小論文があるのに、どうしても小論文が上達しない…という悩みは、塾で講師をしているとかならずと言ってよいほど耳にします。
たしかに、小論文は正解のかたちがわかりにくいので、なんとなく書き慣れてはいても、自分の論述が「良い」のかどうかを判断するのは、高校生の段階ではほとんど不可能と言えるほどです。
そこで本記事では、〈小論文の初歩は知っているが、しかし伸び悩む学生〉をターゲットに、現役東大院生(文系)の筆者から、論理的な小論文の書き方を紹介していきたいと思います。
本記事を通して、容易には反論を許さない〈強い〉小論文の書き方を学んでいきましょう。
目次
1.伸び悩むのは、〈論理的文章〉がどんなものかわかっていないから
世にあふれる小論文の入門書や予備校講師が口を揃えて言うのは、〈小論文は作文とは違って、論理的な文章を書く必要がある〉ということです。
この知見はもちろん間違いではありませんし、小論文を定義するためにはもっとも重要なことです。
しかし、「論理的」であることとはどんなことなのか、論理の定義を与えてもらえる機会はそう多くありません。
もっとも、入門書の著者も講師も、専門的に論理学や哲学を修めている場合は多くありませんので、致し方ないことではございます。
しかしながら、小論文に伸び悩む学生がなぜ伸び悩むのかと言うと、この「論理的」ということがわかっていないからなのです。当然のことですが、論理的な文章の書き方を知るには、論理的であることがどんなことなのか、知っていなくてはなりません。
そこで本記事ではまず、論理的であることについて、理解してもらおうと思います。
2.論理的であるとはどのようなことか
さて、ある文章が論理的であるとか、あるいはそうでないとか、このことはどのような基準から判断されるのでしょうか。
その答えは、〈前に論述されたものから、後に論述されたものが必然的に導かれる〉かどうか、ということです。
言い換えるなら、〈論理的な文章とは、必然的な順序にしたがって書かれたもののこと〉なのです。
そうはいっても、〈必然的necessary〉であること、そして〈順序order〉にしたがうこと、これらの意味をしっかり把握していなければ、上の定義について何も理解していないのと同じです。
では、必然性とは何でしょうか。そして、順序とはどのようなことでしょうか。
3. 必然的であるとはどのようなことか
必然性とはなにか
まず一般的な事柄として、必然性とはなんでしょうか。ひとことで答えるなら、必然性とは「反対が可能ではないこと」です。
見通しをよくするためにまとめておきますが、必然性は可能性・不可能性・偶然性との対比でおさえる必要があります。
可能(possible)…そうであることができる(possible to be)
不可能(impossible)…そうであることができない(not possible to be)
偶然(contingence)…そうでないことができる(possible not to be)
必然(necessity)…そうでないことができない(not possible not to be)
こういう分類を「様相modality」概念とか呼んだりしますが、難しいので脇に置いておきましょう。
重要なことは、〈必然性とはそうでないことができないことだ〉と理解しておくことです。そして、必然性に対立する偶然性は、〈そうでないことができる〉ということです。
言うまでもなく、小論文にとって、その論述が偶然的であることが歓迎されるはずもありません。というのも、偶然的な論述は反対が可能なのですから、別のひとがその小論文を読んだときに、簡単に反対意見を述べることができてしまうわけです。
他方で、必然的な論述は、そうでないことができないわけですから、原理上、論述そのものに反論することはできません。
そういうわけで、相手を説き伏せる力をそなえた強い論述のためには、必然的であることが不可欠になってくるわけです。
まとめ.小論文では、反論できない必然的な論述をめざそう!
二種類の必然性を使いこなそう
とはいえ、必然的な文章とはどうやって書くものなのかを知らなければ、この知識は心がけだけで終わってしまいます。そこで、小論文にとっては肝心な、二種類の必然性を紹介しましょう。
1/ 説得知(persuasion)
ひとつめの必然性は、「そうでないことができるとは思えない」ようなもので、「説得知persuasion」などと呼ばれます。
このタイプの必然性のポイントは、下線を引いた部分の「思えない」ということです。つまり説得の特徴は、ひとが誰でも直観的に納得できるような事柄で、いちいち論証やエビデンスを必要としないという点にあります。
たとえば一方で、〈タバコは臭い〉ということが言いたいとしましょう。この事柄は、タバコを吸う人や、200年前の人などを相手にする場合、必ずしも説得的とは言えないので、長い論証やエビデンス、あるいは実験を用いる必要があります。
ところが他方で、〈タバコには独特の匂いがある〉と言う場合、これは、正常な人間並みの嗅覚をそなえていれば誰でもタバコの匂いを感じないわけにはいきませんから、説得的な事柄です。たしかに、なぜ強い匂いがあるのか、という問いに答えるには、証明を経なければなりませんが、しかしただ独特の匂いがあることを言いたいだけならば、何も論証を要する事柄はありません。
2/ 学問知(science)
もうひとつの必然性は、「そうでないことが実際にできない」もので、学問知(science)と呼ばれます。
こちらは、説得知の場合とは異なって、現に実際に、そうでないことができない事柄を語ります。裏を返して言えば、必ずしもすべての人に直観的に説得的ではない問題を扱いますから、論証を必要とするわけです。
たとえば、〈直角三角形の斜辺の二乗は、残るふたつの辺の二乗の合計に等しい〉(三平方の定理)ということを言いたい場合、三平方の定理を知らない人にはこれを論証する必要がありますし、その他さまざまな幾何学的知識をもってこの定理を証明しなくてはなりません。
以上のように、必然性という言葉には説得知と学問知というふたつのレベルがあり、小論文を必然的に論述するという場合には、これらをうまいこと使い分けながら記述する必要があるのです。
まとめにかえて、説得知と学問知の例をそれぞれ瞥見してみましょう。
説得知…「そうでないことができるとは思えない」e.g. 〈私たちは幸福であるべきだ〉、〈弱いものを助けるべきだ〉、〈暴力はよくない〉、〈私は生きている〉などなど
学問知…「そうでないことが実際にできない」
e.g. 〈人間は動物だ〉、〈人は一人きりでは生きていけない〉、〈労働は国民の義務だ〉、〈文化的生活は重要だ〉など
4.順序にしたがって記述する
上に述べたように、論理的な小論文とは、必然的な論拠を用いて、順序にしたがって書かれたものです。
それでは、順序とはなんでしょうか。
私たちが「順序」と呼んでいる“order”という英語は、「秩序」や 「整合性」などの意味を含んだ単語です。つまり、論述を整合的に秩序だって書くための仕方でもあるわけです。
さきほども述べたように、「順序」とは〈先にくるものから後のものが必然的に導かれる〉ことです。より正確に言うなら、〈先にくるものが後のものに依存せず単独で成立し〉、〈後にくるものが先にくるものに依存してそこから導き出される〉ことです。
すこし抽象的で難しいかもしれませんから、具体的に考えてみましょう。
たとえば、次のような設問と、解答例(簡略化)があったとしましょう。
解答例①と②は、どちらが論理的な答案でしょうか。
①は、論述のそれぞれの要素が切り離されてしまっていて、整合的な順序がない。
対して②は、ひとつめの要素からふたつめへ、ふたつめからみっつめへ、それぞれ連鎖したつながりをもっている。しかも、ひとつめはふたつめなしに、ふたつめはみっつめなしに、それぞれ成立する論拠です。
よって、ややわかりやすくもあるものの、正解は②でしょう。
このように、論述の順序とは、いうならそれぞれの要素が鎖のように連鎖していることであって、これが論証の腱をなし、全体が強い力を発揮できるように働くものなのです。
順序を逸した記述には論理はやどらない。だからこそ、小論文を論理的に書くためには、説得知と学問知を織り交ぜたうえで、順序にしたがって記述するべきなのです。
おわりに
最後に、本記事を通して、小論文を「論理的に」書くということがどんなことなのか、理解してもらえたとおもいます。
つまり、繰り返しですが、〈論理的記述とは、順序に従い、必然的に陳列された論拠による記述である〉ということです。
もちろんこのことは、あくまで「理論的theoretical」な知見にすぎません。小論文を上達するためには、ここで学んだことを頭に留めながら、繰り返し実践して論述してみることです。
それから、最後にもうひとつだけ、上達のための鍵を紹介するならば、それは、〈論理的に書かれた文章をより多く読む〉ということです。
書き方を学ぶためには、理想的な論述の範型(exemplar)を、より多く取り入れておくことが望ましいです。
具体的には、上記のことを意識しながら、「岩波文庫(青)」や、「講談社学術文庫」、「平凡社ライブラリー」などの適当な本を手にしてみることがオススメです。