慶応文学部小論文で合格ラインを勝ち取る戦略
小論文の対策が難しいとは、よく言われることですが、中でも、慶応大学の文学部で実施されている小論文試験(以下、「慶応小論文」と略記します)は、他を寄せ付けない難しさを呈しているようにみえます。
そもそも、一般的な小論文対策にあっては、次の3つのステップをクリアする必要があります。
- 1/ 敵を知る:出題の構造・特色を把握する
- 2/ 準備する:基本的な作文ができるようにしておく
- 3/ 洗練する:高得点を狙える作文技術を身につける
以上、3ステップです。
いきなり最高レベルに挑戦しようとしても、効率が悪く、躓く確率が上がってしまいます。急がば回れというもので、まずは、敵を知ることから始めるのが賢明でしょう。
本記事は、慶応小論文解説の第2回として、この2つめのステップについて解説していきます。
内容としては、ギリギリ合格のラインに入れる小論文を書くための、具体的な勉強法を伝授していくことにします。
2. ギリギリ合格の小論文に必要な3つの要素
そもそも、慶応小論文で、ギリギリ合格ラインに到達するためには、どういう基準を満たしておく必要があるのか、確認しておきましょう。(以下の点は、慶応小論文に限らず、一般的な小論文の多くについて当てはまるとおもいます。)
まず、小論文に点数をつける際に、どんな場合でも用いることのできる3つの基準を抑えておきましょう。
2/ パラグラフ・ライティングができているか。
3/ 独自性があるか。
以上3点です。
中身がどうあれ、この基準を満たす小論文が合格最低ラインを割ることはない、と考えて良いでしょう。
さて、これら3点について、どんな基準なのか、もう少し細かく解説していきます。
2.1. 論点把握
問題文(本文)の論点が把握できているかどうか、というのが、第一の基準です。
慶応小論文では、第一題目の「要約問題」が、主にこれを問うパートになります。
さて、ここで筆者は、「論点」という言葉に少し強い意味を込めていまして、議論の上でのポイントとか、筆者の主張の核心とかを言わんとしています。
もう少し詳しく述べましょう。論点把握というのは、大きく次の2つの内容をもちます。
a/筆者の主張を取り違えていないか。
b/ 筆者の主張のポイントを拾い出せているか。
aの方は、割とシンプルで、本文を間違えずに読む、ということだけです。本文を誤読していたら、いい小論文が書けないというのは、常識的ですよね。
これに対し、bの方は少し高度です。本文を間違えずに読んだ上で、その議論において核心的な点を拾い出し、これを論じることができるかどうかが、ここで問題になっています。
どういうことでしょうか。例をとってみてみましょう。
本文の論旨を簡単にいうと、「時間は瞬間の集積なのだから、飛んでいる矢は止まっている」というものだったとしましょう。(「ゼノンのパラドクス」の一種です。知らないひとはググってみましょう。)
このとき、a/ 本文の論旨を取り違えている人は、たとえば、「飛んでいる矢は止まっているのだから、時間は瞬間の集積だ」と、間違った推論を再構成してしまうかもしれません。
では、b/ 正確なポイントを拾えない人はどうするでしょうか。
この人をBさんと呼んでみましょう。Bさんは、aの基準をクリアできていると仮定すると、およそ、こんなふうに間違えると言えそうです。つまり、「飛んでいる矢が止まっているとは間違っている!」とか、「時間は瞬間の集積ではないのだ!」とか、そういったことを議論してしまうということです。
これがなぜ間違っているのでしょうか。
Bさんと、本文の著者が議論したらどうなるか考えてみれば、自明なことです。つまり、Bさんは、著者に向かって、「飛んでいる矢が止まっているとは間違っている!」と糾弾しますが、著者は何食わぬ顔で、「そうでしょうね」とか、「そのとおりです」と言って、議論が終わってしまうでしょう。
なぜなら、ゼノンのパラドクスを論じる人にしてみれば、これが「間違っている」ことは引き受けた上で、そうした間違いが論理的には肯定されてしまうことを問題にしているからです。だから、Bさんは、著者が自明の前提としていることを指摘してしまっていて、この議論は無意味であるということになるわけです。
このように、b/ 議論の核心を掴むというのは、結構大事なことでして、小論文の評価上のポイントになります。
2.2. パラグラフ・ライティング
パラグラフ・ライティングとは、段落ごとに論点を絞って、クリアに議論を進める技術のことを言います。
小論文の評価の上では、実はこれが一番重要な点です。
慶応小論文の場合ですと、2問目の課題作文が、まさにこれを試している箇所です。
慶応小論文は概ね300–500文字程度のライティングですから、段落に分けると、およそ3–4段落になります。この段落分けが、しっかりできているかどうかが重要です。
つまり、議論をまとめるべきところで自分の意見を言ってしまったり、自分の意見を言うべきところで反対意見を言ってしまったり、議論が混ざってしまうのが、パラグラフ・ライティングの失敗例になります。
具体的に考えるなら、だいたいこんなふうな段落わけになるでしょう。ここでは、代表的なふたつのスタイルとして、A/筆者に賛同するときのスタイルと、B/反対意見を出すときのスタイルを、まとめてみましょう。
1/ 導入と問題提起:筆者の見解のポイントをまとめ、これについて問いを提示する。
2/ 本論:問いの理由を提示し、吟味する。具体例を用いても良い。
3/ 結論:問いの理由の吟味を通じて、結論を述べる。
1/ 導入:筆者の見解をまとめる。
2/ 本論①:筆者の見解に譲歩しつつ、そのポイントを指摘する。
3/ 本論②:反証を示し、筆者の見解を論駁する。
4/ 結論:自分の立場を述べる。
大体の場合、500字程度なら、このくらいが限度だと思います。
これらが具体的にどのように入れていくかは今後みていくとして、いまは、こういった段落わけを明確に意識し、別の段落で論じるべきことが混入しないように注意することにしましょう。
2.3. 独自性
最後に紹介する基準は、独自性です。オリジナリティと言っても同じです。
もちろん、本当の意味でのオリジナリティを求めるならば、それはもはや研究の域ですから、「誰も言っていないことを言おう」とか、「筆者の見解から全く独立して作文しよう」とか、こういう志をもつ必要はありません。もとより、500字程度の小論文では、そのようなことは期待できません。
では、独自性ということで何が示されているでしょうか。
それは、「自分の頭で考えた」ということです。
もちろん、考えただけでは意味がありませんから、そのことをアピールする必要はあります。たとえば具体例において、筆者が提示していないものを提示する。あるいは、筆者の意見に賛成するにしても、別の理由を示す。反証を出すなら、筆者が予見していない反論を出してみる。などなどです。
要するに、大枠としては筆者の議論なり常識なりに乗っかって良いのですが、その根拠や論拠となる部分を、自分なりの仕方で提出することが重要だということです。
3. 具体的な対策・勉強法
それでは、以上を踏まえて、実際に何をしていくか、考えていくことにしましょう。ここでは、以上3点のそれぞれについて、手短に勉強法を紹介していきます。
ここで紹介する勉強法はあくまで一例にすぎませんので、上の3点についての説明を踏まえて、自分なりのやり方を試行錯誤するのが一番です。以下のことは、その手助けに活用してください。
3.1. 論点把握の勉強
小論文の論点把握を勉強するなら、やはりいちばん良いのはディベート形式の練習です。
友人や親兄弟、先生など、どんな人でもいいのですが、誰かと二人以上で勉強する時間が作れるとベストです。その上で、同じテクストを読み、賛成派と反対派に分かれて、議論します。自分が筆者の側に立ってみると、自分にとって「どうでもいい」ポイントがどこで、「本当に守らなくちゃいけない」ポイントがどこなのか、肌感でわかります。反対派に回ると、相手の痛いところがどこなのか、観察する目が育ちます。
これは受験直前の息抜きにも最適なので、(個人の趣味によりますが、)おすすめです。
また、複数人での勉強時間を作れない場合は、脳内ディベートをしてみてもいいと思います。いずれにしても、相手の立場、自分と反対の立場に回ってみることが大事なのです。
こういう思考実験を繰り返すと、いつの間にか、論点を探る能力は鍛えられるものです。
3.2. パラグラフ・ライティングの勉強法
パラグラフ・ライティングを身につけるには、書いた文章を自分で見返す時間、いわば「復習」をしっかりやっていくことが重要です。
数学や英語の場合は復習をしっかりやる生徒も、小論文の場合は書きっぱなしにしてしまう、という場合もしばしばあります。
けれども、小論文とて、復習は必須です。特に、冷めた頭で、「本当にこれは必要なのか」「余計なことを言っていないか」「先走っていないか」など、自分で自分の回答に赤ペンを入れてみるのが良いでしょう。
そのさい意識するのは、「無駄を省く」というミニマリズムです。
慶応小論文は、文字数の制約上、余計なことを書かず、結論に至る最短ルートを取ればいいので、ミニマリズムの精神でいきましょう。
3.3. 独自性の出し方
小論文のオリジナリティは、先程も述べたように、小出しにする程度で十分です。言ってみれば、ここに上げた3つのポイントの中では、一番後回しになるところです。
とはいえ、オリジナリティに関して難しいのは、試験の限られた時間の中で、すばやく発想を絞り出す柔軟さであるといえます。
勉強の際に注意するべきは、或る抽象的な主張に関して、すぐに具体例を言えるかどうか、ということであったり、具体例を別の具体例に置き換えることができるかどうか、ということであったりします。
多くの場合は、本文内に一つぐらいは具体例が出ているので、重要なのは、その例を広げていく発想力です。つまりどちらかといえば、一つの具体例からいろんな具体例を連想することでしょう。
連想を意識して、具体例の置き換えを日頃から意識しておくと、そのスピードは上がっていきます。
まとめ
以上、慶応小論文、ギリギリ合格のための作文法を紹介してきました。
ギリギリ合格のためのポイントは3つでした。論点把握、パラグラフ・ライティング、独自性です。
まず、これらの基準を満たす小論文を書くことを目指して、取り組んでみましょう。