形而上学って何?その誕生からわかりやすく解説!
現代文や倫理の勉強をしていると、「形而上学」という言葉が出てくることがあります。
でも、この厳しい学問は、何をどう探求する学問なのでしょう。よくわからない、という人も多いと思います。
ここでは、その学問の誕生の秘密に迫り、この学問についてわかりやすく解説します。
目次
「形而上学」とググると…
手始めに、「形而上学」とネット検索してみましょう。
すると筆者のエンジンでは、
と出てきます。
訳がわからない、というのが素直な感想ではないでしょうか。
それもそのはず、この定義はおそらく、形而上学が誕生して2000以上経過した、18世紀の哲学を踏まえているので、かなり複雑化しているのです。
でも、安心してください。実は、形而上学はその誕生まで遡ると、実はわかりやすかったりするのです。
アリストテレスの『形而上学』
「形而上学」の誕生。それは、古代ギリシアの哲学者アリストテレスの『形而上学』と呼ばれる本に由来します。
「形而上学」は英語では “mataphysics” と言いますが、 ‘meta’ はギリシア語で「後に」を意味する接頭語です。 ‘physics’ の方は、知っている人も多いと思いますが、「自然」を意味するギリシア語で、現代では「物理学」にあたります。
つまり、「形而上学」とは、「物理学の後に」という意味になります。
問題は、「メタ=後に」というのがどういう意味か、です。
実は「メタ」には三つの意味合いがあり、それが形而上学の全容を知るのに役立ちます。
三つの「メタ」① 著作の順番
まずは一番簡単な「メタ」です。
これは、アリストテレスの著作が編纂されたとき、『自然学』という著作の後に『形而上学』が置かれたという、書物編纂上の事情です。
実は『形而上学』には正式なタイトルがないので、「『自然学』の後に載ってるアレ」といった呼び名がついた、ということですね。
三つの「メタ」② 学習の順番
形而上学は、物理学の後に学ばれるものとされていました。
ちょうど、高校の勉強が自然学だとすれば、大学での研究が形而上学、みたいな関係です。
この順序は、互いの学問が対象とするものに関わっています。
物理学(古い言い方だと、「自然学」)は、実在する物体についての学問です。物体の性質を調べ上げ、その運動の法則を究明する…というのが、物理学の本分でしょう。
しかし、物理学をどんなに進めても、「物体は存在するのか」とか、「物体はなぜ存在するのか」といった問いに直接答えることはできません。
物理学は、物体の存在を仮定した上で成り立つ学問であり、自らの成立根拠を問いただす権利をもっていないからです。
これに対して形而上学は、「物体」がそもそも存在するかどうか、存在するならなぜなのか…といったことを考察します。
その意味では、物理学の根拠に迫るのが形而上学です。
しかし、そうした学問をやるためには、物体のあり方や運動法則についても或る程度知っていなければ、物体について然るべき問いを提起することもできません。
つまり、形而上学をやるためには物理学の知識が必須なのです。
そのため、形而上学は物理学を修めた後の、次のステップとして用意されているわけです。
三つのメタ③ 物理学を「超える」
学習の順番からして「形而上学」が「物理学」の後にくる、という説明にあたって、形而上学が物理学の根拠について問う学問だと言いました。
実はこれは、形而上学の三つ目の「メタ」からもわかることなのです。
ギリシア語の「メタ」には、「後に」という意味の他に、「超えて」という意味もあります。
マンガやアニメで俗に「メタ発言」と言われるセリフは、この意味での「メタ」です。
物理学が「物体」を考えるのに対して、形而上学は「物体の存在根拠」を考える。「モノ」について考える物理学と、「モノはなぜこうあるのか」について考える形而上学。
この違いが、形而上学が「物理学を超えて」探求を進めるということを示しています。
ちなみに、日本語の「形而上」というのも、この意味から理解されます。
「形而下」というのは、「形のもとにあるもの」、つまり物体を意味します。
だから、物理学は言ってみれば「形而下学」です。
反対に、「形而上」とは、「形を超えたもの」であり、形而下のものの根拠になっている超越的な対象のことを指すわけです。
昔の人はちょっと難しすぎる訳語をあてたものだ、と筆者も思いはしますが、そのココロはある程度理解できたのではないかと思います。
形而上学、物理学、幾何学
以上説明してきたように、形而上学は物理学の後に置かれ、後に学ばれ、物理学を超えた対象を扱う、そういった学問です。
この区別をわかりやすくするために、アリストテレスが『形而上学』で述べている、形而上学・幾何学(=数学)・物理学(=自然学)の三区分を紹介しましょう。
アリストテレスは、この三つの学問がそれぞれ次のように対象を異とする、といっています。
幾何学の対象:形のうちにある・不動なもの
形而上学:形のうちにない・不動なもの
物理学は、ここでは個々の物体ではなく物理法則を対象とすると考えてください。法則そのものは特定の形をもたないので、その意味で物理学の対象は形をもたない、と言われます。
しかし、物理法則は「不動」ではありません。ここで不動というのは「普遍」くらいの意味で理解しましょう。
地球上での落下方程式が月の上では通用しないように、物理法則はところ変われば別物になってしまう、その意味で不動ではありません。
幾何学は、図形を対象とするので、形あるものを対象としています。
しかし、三平方の定理が月でも冥王星でも同様に通用するように、その対象は普遍的で、不動です。
さて、形而上学は、モノの存在そのものを問うわけですから、形をもたないものを扱います。
そして、あらゆる存在に共通の原理を探るので、その意味で普遍的な対象を考察することになります。
それゆえ、形而上学は形のない、普遍的なものを扱う学問として特徴づけられることになるのです。
まとめ
いかがだったでしょうか。形而上学について、イメージを掴むことができたでしょうか。
簡単にまとめるなら、形而上学は、あらゆる学問対象のうちで一番抽象的で、一番普遍的で、一番根本的なものを扱う学問です。
そもそもその対象が抽象的だから、どうしてもわかりにくいイメージがついてしまうのでしょう。
でもそれだけの魅力とパワーが形而上学には秘められているということも、伝わっていれば嬉しいです。
もっと学びたいひとへの文献案内
- アリストテレス『形而上学』出隆訳、岩波文庫、1959年訳
形状学を知るなら必読の一冊。名訳なのですが、文体がやや古く、とっつきにくい感じは否めません。いずれにしても、内容的にも難しいので、いきなり原書だけを手に取ると高確率で挫折するので、ぜひ以下の参考書とセットで読んでみてください。
- 山口義久『アリストテレス入門』ちくま新書、2001年
形而上学に限らず、アリストテレスの思想前半への網羅的なガイドになっています。まずはこれを読んでイメージをつけるのもおすすめです。
- 富松保文『アリストテレス はじめての形而上学』NHKブックス、2012年
アリストテレスの形而上学に特化した入門書です。内容はかなり抽象的で高度なのですが、解説は丁寧で、わかりやすいと思います。哲学的思索にどっぷり浸かりたい方は、ぜひ。
- 飯田隆ほか編『岩波講座2 形而上学の現在』岩波書店、2008年
形而上学が近年どう論じられているのかを紹介する論文集。図書館などに置いてあることも多いので、一度開いてみると議論の雰囲気がわかります。