大学入試の英語、総復習のやり方は? 〜訳読勉強法のススメ〜
本記事では、早慶や東大の学部・大学院で実際に筆者が学んだ訳読スタイルの英語勉強法を、予備校で教えるためにどんな受験生でも使えるようにアレンジしたものを紹介します。
主に英語の総復習や、英語力(語学力)の底上げに活用してください。
早い人なら高三の前期、遅い人でも高三の11月ごろから、大学入試本番に向けた英語の総復習に入ることになりますが、この「総復習」、実際のところ何をするべきなのかがあまり確定的ではありません。
塾によっては文法メインの総復習テストを扱うかもしれませんし、また過去問を想定した勉強をすることもあるでしょう。
ともかく、標準的な総復習のやり方はいまだあいまいなところがあるのです。
そこで筆者がおすすめしたいのは、「訳読」というシンプルな勉強法です。
訳読法は、早慶や東京大学などの文系学部の語学授業でも広く採用されている方法で、文法の包括的な総復習と、読解能力の向上を同時に行うことのできる優れものです。
しかし残念ながら、このシンプルな訳読さえ、ほとんどの受験生がマスターしていないのが実情です。それどころか、早慶や東大の授業をみても、正確な訳読ができる学部生はほんの一部で、ほとんどはあいまいにやってしまっているのです。
そこでみなさんには、本記事を通して、英語力を確実に向上させる正しい訳読法を、ぜひとも身につけてほしいと思います。
目次
1.訳読のねらいとメリット
まずは、訳読のねらいについて明らかにしておきましょう。
訳読は、下に書くように、音読→読み上げ形式の翻訳という過程を通じて、文章を精読する力を養うために行います。
訳読法のメリットは、少なくとも四つあります。
① 自分のわかっていないことが明確にわかるということ。
訳読では、和訳に詰まったところが、理解できていないところですから、当然、不明点が明確に把握できます。単なる黙読ではなんとなく見過ごしていた点を、訳読によって発見できるわけです。
② 読解能力が格段に向上するということです。
接続表現や論理展開に気を使いつつ訳していくことになるので、まとまりのあるテクストを解読するトレーニングとして最適です。
リアルタイムの翻訳は、考えられる時間が少ないため、本当の意味で身についた知識しか使えませんから、知識の定着を通じて読解能力の向上を見込むことができます。
③ 英語に対する瞬発力が上がるということ。
主として会話やリスニング、時間の限られた試験などで求められる瞬発力ですが、これを鍛える基本として、英文をリアルタイムに読みつつ訳すというのは、非常にためになる勉強法と言えるでしょう。
覚えた知識を瞬時に引き出す練習を繰り返すことで、定着した知識が使えるものへとグレードアップしていきます。
④ 最後に一番当たり前のことを言いますが、何よりも手軽な勉強法だということです。
訳読法は、もちろんノートに訳文をまとめたりすることができれば何よりですが、基本的には、英文がありさえすればやってみることはできます。
自身の英語力に応じて、例えば単語がわからなければ辞書を、文法がわからなければ参考書を、それらを記憶できなければペンを、それぞれ用意する必要がありますが、熟達すれば、英文が書かれた紙ペラ一枚で、十分に学習することができます。
家のソファーでも、ベッドでも、公園のベンチでも、訳読法は実践できるのです。
それでは、実際に訳読法を行う手順について説明していきましょう。
2.訳読法の手順 音読→邦訳→解釈
訳読の手順は簡単で、次の三つのステップからなります。
STEP1. 音読する
まずはじめは、与えられたテクストを音読してみましょう。
このねらいは、明白ですが、まずは発音の強化というのがあります。語の正確な発音を会得することは、リスニング対策としても適切ですね。
また、まとまりのあるセンテンスの切れ目、いわば意味の切れ目を探すトレーニングとしても最適です。
方法としては、一文ずつ読んで→訳す→また一文音読→訳読というのもありますし、また、パラグラフないし大きなまとまりをまとめて音読→まとめて訳読という方法もあります。
ともあれここでは、さしあたり一文ずつをおすすめします。まとまりを見つけるのにはそれなりの英語力が必要ですから、初級編としては一文ずつが望ましいでしょう。
STEP2. 翻訳する
続いて、音読したテクストを読み上げ式で翻訳します。
やることは単純なのですが、これが、実際にやってみるとかなり難しいことがわかります。
ポイントについては、後でまた述べますが、ここでは、訳文となる日本語を声にだしつつ訳することで、自分の声を自分の耳で聞き、間違いや不自然なところがないか、注意をはらっておきましょう。
STEP3.解釈する
最後のステップは、自分で読んだ訳文を、もう一度自分で見つめ直し、本当のところ、何を語っているテクストだったのか、つまりは、そのテクストの内容について、考察してみます。
本記事では英文解釈の技法までふれることはしませんが、この作業を通じて、テクストの抽象度を上げて理解し、読解していくことが目的です。
そうすることで、自分の訳文がシチュエーションに適したものであるのかなど、さまざまなことを見つめ直すことができるでしょう。
3.訳読のポイント
いよいよ訳読を行うにあたって、いくつかの注意点(ここでは主にふたつ)があります。これを知っておかないと、正しい訳読を行えず、いつまでたってもあいまいな翻訳しかつくれない、英語力が上がらない、といったことになってしまいます。
上の3ステップで言うと、とりわけ注意しなくてはならないのは「STEP2.翻訳する」の段階です。音読は当然正しく読むことが、解釈は当然堅実に読むことが、それぞれ大事なことは明白なのですが、邦訳に関しては、あまり一目瞭然ではないポイントがあります。
ここでは、つぎのふたつの主要なポイントを説明します。
POINT1.訳語は一言一句対応
ここで最も重要なことのひとつが「一言一句対応の和訳を作る」ということです。
大学でも、これができない人をしばしばみるのですが、これができないと、単語力が曖昧になり、定着が遅くなるように思えます。
一言一句対応とは、英単語ひとつにつき、ひとつの日本語を割り当てるという方法です。もちろん、文脈によって明らかに訳し分けなければならないこともありますが、基本線として一言一句対応にしておくことで、和文英訳の際にも使える、脳内英和・和英辞典を構成しやすくなります。
たとえば、ある研究分野では、「知る」という語彙に関して、非常に多くの単語を一言一句対応で訳し分けている場合があります。
一例として、 “understand” をとってみましょう。
これはもちろん、「理解する」という動詞です。ところで、「理解する」といえば、 “comprehend” や “conceive” という単語も浮かびます。もしこれらを一様に「理解する」と訳してしまうと、原語では区別されている語彙が、訳語においては区別されていないということになり、混乱を招きかねません。
そこで、日本語にも多様に存在している「理解する」関係の語彙を導入して、言語を訳し分けてみましょう。“comprehend” を「把握する」として、 “conceive” を「抱懐する」としてみるとどうでしょう。こうすることで、とりあえず訳語の混乱を避けることができますね。
訳し分け、一言一句対応の翻訳は、ときとして不必要に難解な日本語を用いる必要にせまられることもあるかもしれませんが、訳読にあたっての原則的な態度としては、支持するべきものです。
反対に、一言一句対応できない単語の例をみてみましょう。
“subject” という単語があります。これは「科目」や「主題」、「主体」、「実体」という意味の単語です。実際、訳語のうちには、「主」という共通点があるので、ひとつの語を指していることはなんとなく理解可能です。
しかし、やはりこれらの訳語を包括的に表現する日本語の単語は、ひとまず思い当たりません。そういうときは、文脈にしたがって別々の訳語をあてるほかないでしょう。つまり、下のような場合です。
「われわれはみな情念の基体である。ところで、情念は科学の対象ではない」。
この場合、ふたつのセンテンスに登場する“subject” をひとつの訳語で対応させようとすると、あきらかに矛盾が生じてしまいます。「われわれが情念の対象である」とか、「情念は科学の主体ではない」とかは、文の内容から言ってとても理解可能ではありません。
つまりこの例は、同じセンテンスの中でさえ、訳語を使い分けなくてはならないシチュエーションだということがわかるのです。
POINT2.訳し下す
ふたつめのポイントは、「訳し下す」ということです。
あまり聞きなれないかもしれませんが、訳し下しと訳し上げは、訳読法の基本的なふたつのスタイルです。
具体的には、関係代名詞や分詞、動名詞、前置詞などを用いて、ある語句やある文を、後ろから修飾している場合を想定してみてください。例を見てみましょう。
We found the car of which the suspect is the owner.
訳し上げると:「われわれは、その容疑者がそれの所有者であるところの車をみつけた」
訳し下すと:「われわれはその車を見つけた、その車というのは、その容疑者が所有者である車だ」。
といった感じになります。
訳し上げるほうが一応は受験英語の正道ではあるのかもしれませんが、この例文のような短文の場合はともかく、実際のテクストにおける長い関係節や、従属節の連鎖などにはとても対応できないでしょう。
そこで推奨されるのが訳し下ろしであって、これならば、読んだ順に訳していけばいいのですから、ひっかかることはまずありません。先行詞と関係詞とを正確に抑えさえすれば大丈夫です。
訳し下ろしのデメリットは、制限用法と非制限用法の違いが見えにくくなってしまうことですが、その点は次のように区別します。
上の例文は制限用法なので、訳し下ろしの文体は、「われわれはその車を見つけた、その車というのは、その容疑者が所有者である車だ」というように、「車」が三回出てきます。ひとつは元々の名詞、二つ目は関係代名詞which、三つ目は制限用法であることを明確にするためのもので、ひとつめの名詞に帰属します。訳文を比較してみましょう。
非制限用法:We found the car, of which the suspect is the owner.
訳し下し:「われわれはその車を見つけた、そしてその容疑者がその車の所有者だった」。
というわけで、非制限用法の方の訳し下し文は、「車」が2度しか出て来ず、文末には出てきません。
これは、非制限用法の関係節が、先行詞に帰属していないことを明示するもので、つまりはふたつの文章がそれぞれ独立して完結していることがわかります。
反対に、制限用法の文末に出てくる「車」は、その節全体が名詞に帰属する関係節であることを明示しているわけですから、両者の違いが見えてくるわけです。
こうして、訳し下しは、若干のコツがいるものの、リアルタイムに英文通りの順序で訳すことができるという点で、非常に勘弁なものであることがわかります。
まとめ
以上、訳読勉強法の紹介でした。
簡単に振り返ると、訳読は、音読→邦訳→解釈という3ステップからなるものであり、ふたつめのステップを行うのにはいくつかのコツが必要で、そのひとつが一言一句対応、もうひとつが訳し下しである、ということでした。
他にもいくつかコツはありますが、それはまた別の機会に紹介したいと思います。
それではみなさん、ぜひ訳読を通じて、英語力の底上げを図ってみるとよいでしょう。